変形性膝関節症はどんな病気?
変形性膝関節症は、ひざ関節の軟骨が擦り減ってくると起こる、組織の変性(多くは骨変形)を伴う関節の炎症が主病態です。動作時にひざに痛みを感じるようになり、歩行や立ち座り、階段の昇降など、日常生活におけるいろんな下半身動作に支障をきたしてしまいます。
ひざ関節の構造と変形性膝関節症
ひざ関節は大腿骨、脛骨、膝蓋骨、骨の表面を覆う軟骨、半月板、靭帯、腱、筋肉などの様々な組織から構成されています。なかでも関節の運動をスムースにしたり、ひざ関節に加わる衝撃を緩和する役割を持つのが軟骨です。
その軟骨がすり減ることで、ひざ関節への負荷は増大。加えて、ひざ関節を酷使していたり、加齢などで、関節の安定性・荷重の分散・膝屈伸・回旋運動などに働く半月板や靭帯や腱が損傷しているケースも少なくありません。
こうして体重や動きによる衝撃に耐えられなくなったひざ関節では、軟骨だけでなく骨にまでダメージが及びます。
患者数や傾向
ひざの痛みなどの自覚症状を有する人は全国でおよそ1000万人、症状はまだないもののレントゲン検査で発覚する潜在的な患者数はおよそ3000万人と推定されています[1]。発症率は加齢に伴い高くなり、男性に比べ女性の罹患は4倍となっており、60~70代の女性に多いのが変形性膝関節症です。
加齢については筋肉や各関節組織の劣化が、女性が多い点については、骨代謝に関わる女性ホルモンの減少や、男性に比べて筋肉量が少ないことなどが要因と考えられています。
また、日本人においては脛骨が内側に弯曲しているため、進行するとO脚変形を呈す、内側側変形性膝関節症がほとんどです。
発症の原因
実際のところ根本的な原因が何か、はっきりとは分かっていません。はっきりと原因が特定できない一次性のものと、ひざ関節周囲のケガや病気が影響している二次性のものがあります。
一次性のいくつかの危険因子として加齢や性別(女性)、肥満、O脚やX脚、ひざ関節に負担の大きいスポーツ歴や重労働、遺伝などの影響が考えられています。二次性は既往歴や過去のけがの影響で発症する変形性膝関節症で、ひざの靭帯や半月板の損傷や、関節リウマチや痛風性関節炎などが要因となります。
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Q: 30代で変形性膝関節症になることはありますか?
どんな症状が現れる?
最たる症状は、ひざの痛みです。その程度は人によって様々ですが、初期では良くなったり悪くなったりを繰り返します。典型的には歩き始めや、立ち上がり、しゃがみこんだり、階段昇降などの動作に伴って強い痛みを感じ、休むことによって治まります。また、ひざが固まったように動きにくく感じる”こわばり”を自覚する人も多いのが特徴です。
関節内で炎症が進むと、膝が腫れる、水がたまる、熱を持つなどの症状が現れます。軟骨のすり減りの進行で、動作時に膝が擦れるような感覚が生じたり、ギシギシ・ゴリゴリといった音が鳴ることもあります。さらに進行すると、骨と骨が直接ぶつかるようになるため骨の変形が進み、膝の曲げ伸ばしが困難になったり、O脚やX脚になることも。
安静時や夜間でも痛みを感じ、歩行やちょっとした下半身の動作も困難となり、日常生活に支障をきたすようになってしまいます。
診断方法
上記のような症状が見られる場合、病院ではレントゲンの検査を行います。レントゲン写真では、まず関節の隙間の広がりや骨の形状をチェックします。骨棘(骨の縁に生じる棘のような変形)、骨硬化(骨同士がぶつかりあって軟骨下の骨が硬くなった状態)なども、進行具合を評価する指標となります。
ただ、レントゲンでは直接的に骨を観察したり、関節の隙間の狭小具合から間接的に軟骨を評価することしかできません。レントゲンで異常が認められない場合やより詳細に検査する場合は、関節内にある半月板、軟骨、靭帯、滑膜などの軟部組織をMRIで可視化することで、総合的に膝の状態を診断します。その際、半月板損傷や靭帯損傷、骨壊死(軟骨下脆弱性骨折)、膝窩嚢胞などの疾患が認められるケースも少なくありません。
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症状が似ている別の病気
変形性膝関節症でひざ関節に覚える症状は、次のような疾患の症状と似ていることがあります。
ひざの痛みで整形外科を受診して疑わしい場合は、レントゲン検査の他に関節液や血液検査で確定診断を行います。
関節リウマチ | 痛風性関節炎 | 偽痛風 | |
病態 | 自己免疫の異常による全身性の炎症性疾患。 激しい痛みと関節破壊が進行する。 |
尿酸が体内に溜まるとそれが関節内で結晶となり、炎症を引き起こす。 安静時にも痛みが出現し、1〜2週間で症状が軽減することが多い。 |
ピロリン酸カルシウムの結晶が関節内に沈着することで炎症を引き起こす。 発熱を伴うことが多く、発作が数日〜1週間持続した後、軽減する傾向にある。 |
予防方法は?
ひざ関節にかかる負担を少なくすることがまず第一なので、体重管理と筋力を維持するための適度な運動を心掛けることから始めましょう。例えば、食事量や脂肪の多い食事に注意したり、水中ウォーキングや自転車などの膝に大きな負担のかからない有酸素運動を取り入れるのも良いでしょう。また、座ったままでのひざの曲げ伸ばし運動なども有効です。
その他、日常行動では、膝関節に過度な屈曲運動を強いるので正座は控えた方が良いと考えます。また、トイレ、寝床、食事は膝への負担は少ない洋式の生活スタイルの方がおすすめです。
治療方法は?
治療は運動療法や薬物療法などの保存的治療と手術療法に大別されますが、ほとんどの患者さまにおいて、初期には手術ではない保存的治療が中心になります。
<保存的治療例>
●生活指導:生活様式や、食事なども含めた生活行動の改善アドバイス。
●運動療法:ひざ周辺の筋肉を鍛えたり、可動域の維持や向上を目指す体操など。
●薬物療法:鎮痛薬や湿布、ヒアルロン酸やステロイドの注射が一般的。
●物理療法:電気や赤外線、超音波などの照射で症状の改善を目指す。
進行期では保存的治療を継続するか、手術療法を行うか患者さんによって治療の選択肢は分かれてきます。末期では患者さんの全身状態が許す限り、手術の適応となることが多いです。手術療法は変形性関節症の病期や骨変形の程度、年齢を考慮して様々な手術法が選択されます。
<変形性膝関節症の手術例>
●クリーニング手術:ひざ関節鏡下で軟骨や半月板のささくれ・毛羽立ちの除去を行う。
●骨切り術:骨をくさび状に切り骨アライメント(骨の配置)を矯正。年齢が若く進行期に適応。
●人工関節手術:骨を削り、関節自体を金属のインプラントに置き換える。進行期〜末期の手術。
治療の基本は運動療法
運動療法は患者さんがどの進行具合であろうと、また保存的治療、手術療法のいずれを選択しようとも、変形性膝関節症の治療において重要です。国内外の変形性膝関節症の診療ガイドラインでも、定期的な有酸素運動や筋力トレーニング、可動域訓練などは強く推奨されています[2]。基本的には、太ももの筋力(大腿四頭筋)や膝の動きの維持が中心の運動となります。
ひざの動きを良くする準備体操
1.椅子に深く座る
2.片方のひざをゆっくり伸ばす
3.そのまま10秒間キープ
4.足を元に戻す5.20回やったら反対の足も
※伸ばすと痛いなら曲がってもOKです
ひざの負担を軽減するための体操
1.片ひざを伸ばして床に座る
2.丸めたタオルを足の下に挟む
3.ひざを伸ばしてタオルを潰し5秒キープ
4.5~10回で反対の足に交代
ひざを安定させるための体操
1.横向きに寝そべり、頭・肩・骨盤・膝・足首を一直線に
2.上側の足を3秒かけてあげ、3秒かけて下ろす
3.10回やったら反対の足も
※つま先が上に向かないよう注意
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Q: 変形性膝関節症でしてはいけないことはありますか?
変形性膝関節症の手術方法
大きく3つに分けられる手術の内容や期待できる効果、また手術に伴うリスクなどについてご説明します。
クリーニング手術 |
ひざに小さなカメラを挿入し、関節内を目視しながら損傷した組織の破片などを除去する手術です。正式には、関節鏡視下郭清術と言います。 痛みや違和感の改善が期待でき、小さい傷で済み入院も数日で済みますが、改善しても効果が持続しなかったり、症状の再発も起きやすい傾向もあります。 |
骨切り術(脛骨の場合) |
脛骨もしくは大腿骨にくさび状の切り込みを入れ、そこに人工骨を挿入。それを金属で固定し、O脚やX脚の変形を矯正します。 関節を温存できるのがメリットですが、術後しばらく骨切りの痛みが残ったり、骨癒合に時間がかかるので入院やリハビリが長いというデメリットもあります。 |
人工関節置換術(全置換) |
損傷した骨を削り、金属やセラミックなどのインプラントに置き換える手術です。関節の損傷部分だけの部分置換術と、全体に行う全置換術があります。 痛みの緩和や変形改善が期待できる反面、感染や血栓症など重篤な合併症リスク、再置換手術の可能性、高い活動性の再獲得は困難などがデメリットとしてあげられます。 |
再生医療という選択肢
近年、変形性膝関節症の新しい治療の選択肢として注目されているのが、患者さまの自己組織を利用した、再生医療です。
変形性膝関節症の治療では、”いかに進行させないか”という点が重要なポイントとなりますが、まさに再生医療は進行を遅らせることを目的とした、根本的な改善が見込める第3の選択肢という位置づけだと考えています。
「入院の必要がない切らない治療」というのが大きな利点で、自分の体内にある組織を利用するので副作用のリスクも少なく、いま受けている治療で症状が改善しない方、手術をできない、もしくはしたくない方、活動性の高い方などには、特にご検討をおすすめする治療法です。
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