培養幹細胞治療とは
患者さまの脂肪組織から得られた幹細胞を一旦体外で培養し、数を増やしてから投与するのが培養幹細胞治療です。
炎症や痛みを抑える作用が期待できる治療で、当グループの症例では約6〜7割の患者さまで治療が奏功しているというデータも得られています。
現在の治療法で改善が難しく、次の選択肢として手術を考えている方でも、それを回避できる、または手術時期を遅らせられる可能性があるため、ご提供しています。
幹細胞とは軟骨、骨、筋肉など様々な細胞に分化できる性質をもつ細胞のことを言います。造血組織である骨髄中に存在することは以前から知られていましたが、近年では脂肪組織中にも豊富に含まれていることがわかってきました。現在では整形外科だけでなく、広く再生医療分野で注目され、様々な研究がおこなわれています。
>詳しくは「ひざ関節の再生医療」のページもご覧ください。
【参考リンク】
Q: 変形性膝関節症は完治しますか?
メリット・デメリット
この治療では、培養幹細胞が関節内の細胞や組織に働きかけ、痛みや炎症の改善を図ります。そのため長期的な効果が期待でき、当グループにおける現在の調査(2020年3月現在)では12ヶ月後まで、海外の報告では2年にわたって改善が持続したという報告もあります[1]。一方で新しい治療ということもあり、もっと長期に及ぶ治療成績のデータを確認できていない点が課題です。
メリット | デメリット |
人工関節など、ひざの手術に比べ低侵襲(入院なし) | 治療の効果や持続期間に個人差がある |
自己細胞なので、拒絶反応やアレルギーのリスクが少ない | 保険適用外の治療なので、自由診療での提供に限られる |
他の注射治療に比べて、長期間の効果が期待できる | 幹細胞が働いて効果が出るまで、2~3か月ほどかかる |
適応・適応外について
主に変形性膝関節症に対して行っている治療です。進行期〜末期において「手術を回避したい」「手術ができない」といった患者さまに多く選ばれています。ただ、再生医療の効果が見込めない、もしくは治療の適応外と診断するケースもあります。事前に詳しく診察してご説明しますので、まずはご相談ください。
治療の流れ
培養幹細胞治療の適応との診断で、患者さまが治療をご希望された場合、下記のように治療を進めさせていただきます。
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1 採脂
幹細胞源となる脂肪組織を、患者さまのお腹から豆粒大ほど採取します。
局所麻酔で、15~20分ほどで終わる処置です。
入院は必要なく、歩いてご帰宅いただけます。 -
2 検査・培養
細胞の加工は、厚生労働省の許可を受けた専門の施設・スタッフに委託しています。
血液検査も行い、問題なければ6週間ほどかけて幹細胞が培養されます。 -
3 治療
脂肪を採取した際にご予約された治療日にご来院ください。
細胞加工施設からは凍結した状態で届き、注入直前に解凍して注入液を作成します。
注入はヒアルロン酸同様の注射器で、片ひざ10秒ほどで終了します。
脂肪採取と治療後の注意点
・脂肪採取の当日~翌日と治療当日は、入浴と飲酒をお控えください。・治療後はひざの腫れがひどくなる恐れがあるため、激しい運動や過度なマッサージは控えてください。・治療後に運動を再開する時期は、通常2〜3ヶ月以降とお考えください(患者さまのひざの状態によって異なります)。・培養幹細胞を十分に関節内へ行き渡らせるため、ひざの曲げ伸ばしなど、関節を動かすよう意識ください。安静にし過ぎると、関節が硬くなってしまうことがあります。
治療に伴う痛みやリスクについて
脂肪の採取に伴い、内出血やむくみ、硬結(しこり)が起こることがありますが、通常の経過症状です。2〜3ヵ月ほどで自然に落ち着きます。また、少量の採取なので、採取中の痛みは局所麻酔で対応可能です。
治療の痛みは他の注射治療と同程度で、注射後は痛みや腫れ、皮下出血などの生理的反応を伴う場合がありますが、痛みが強い場合は鎮痛薬の服用、反応による痛みの出やすい方には内服薬を追加するなどして、症状の緩和を図ります。注射に伴う感染、神経・血管損傷のリスクは他の注射手技と同程度には考えられますが、これまで当グループで重篤な副作用は報告されていません。ただ、ご不安な症状などございましたら、ご遠慮なくご相談ください。
費用
詳しい費用については、料金ページにてご案内しております。また、当院の治療は自由診療になりますが、医療費控除制度が適応される場合があります。併せて内容をご確認ください。
よくある質問
幹細胞のどのような働きで痛みが改善するのでしょうか?
投与された幹細胞が成長因子を分泌します。それにより関節内に存在する周囲の細胞や組織の機能を活性化し(パラクライン効果)、炎症や痛みを軽減するというメカニズムです。実際、培養幹細胞の投与前後の痛みを数値化して調査したところ、数値が低下したという報告もあります[2]。
また、幹細胞の持つ特性から、幹細胞自体が傷んだ軟骨や骨細胞に置換され直接的な組織の修復効果も期待できると、理論上は考えられています。しかし、このいわゆる“組織が置き換わる”という効果は、今のところ非常に限定的です。
他の幹細胞治療との違いは何ですか?
大きくは「培養する」という点で異なります。
脂肪幹細胞を用いたひざ治療には、採取した脂肪から取り出した幹細胞を含む成分を、そのまま関節内に投与する治療法もあります。脂肪採取日に治療まで行えるというメリットはありますが、ただその場合、細胞源となる脂肪組織が200~300mLほど必要です。20mLの脂肪から約1,000万個の幹細胞を確保できる培養幹細胞治療に比べ、体への負担はその分大きくなります。
また、当グループの症例研究では、非培養法と同等以上の有効性が培養法で確認されていることもあり[3]、当院では培養幹細胞治療を採用しています。
年齢制限はありますか?
治療はもちろん、脂肪採取も少量で低侵襲な処置なので、人工関節の手術などのように高齢だから受けられないということはありません。当グループでは、90歳以上の患者さまへの治療実績も複数例あります。
ただ、今のところ再生医療が成長している骨に及ぼす悪影響を完全には否定できません。したがって骨端線がまだ閉じていない(骨の成長が終了していない)と考えられる20歳未満の方は、当院では治療対象外となります。
再生医療に関するその他のQ&Aは、こちらをご覧ください。
脚注
- [1]∧Jo CH, et al. Intra-articular Injection of Mesenchymal Stem Cells for the Treatment of Osteoarthritis of the Knee: A 2-Year Follow-up Study. Am J Sports Med ;45(12):2774-2783. 2017.
- [2]∧Pers YM, et al. Adipose Mesenchymal Stromal Cell-Based Therapy for Severe Osteoarthritis of the Knee: A Phase I Dose-Escalation Trial. Stem Cells Trans Med 5: 847-56. 2016.
- [3]∧Naomasa Yokota, et al. Comparative Clinical Outcomes After Intra-articular Injection With Adipose-Derived Cultured Stem Cells or Noncultured Stromal Vascular Fraction for the Treatment of Knee Osteoarthritis. American Journal of Sports Medicine. 2019 Aug 2.